TOP活動実績2003年研究成果概要


[研究グループ構成]

          研究者:元木邦俊,桃内佳雄,越前谷博,松崎博季
       共同研究者:荒木健治(北大),笹岡久行(旭川高専)
研究支援スタッフ(PD):渋木英潔


[研究課題と成果概要]

①[ 声道モデルの高度化による音声生成機構の物理音響的特徴解析(元木邦俊・松崎博季) ]
音声生成系の物理的特徴を表す音響モデルを高度化し,知的システムとのインターフェイスとして利用する技術を開発することを目標として研究を行っている.これまでに,母音生成系モデルの場合であっても伝達特性上に零点が発生するなど複雑な音響特徴を示すことが分っている.2003年度は,定常発話状態の音響特徴の解析を進めるため,日本語母音の詳細な声道形状モデルを構築し,3次元有限要素法により音響特性を計算した.咽頭と口腔の間の曲がりを省略した場合,梨状窩,喉頭蓋谷などの声道内分岐を省略した場合,口唇部の突き出しの有無など,3次元形状の取り扱い方の違いによる伝達特性への影響について検討を行った.この結果,低域に存在するホルマントの移動は,声道モデル各部位の扱いの違いと干渉することなく独立に生じるが,それが加算された場合であっても音韻性の違いとして知覚されるだけのホルマント移動量とはならないことが強く示唆された.一方,第3ホルマント周波数より高い周波数域(おおよそ4kHz以上)では分岐の有無によって新たな零点や極が生じる場合があること,高域では口唇突き出しの影響が少ないことなどが示され,声道の微細形状と音声の個人性特徴の対応に関連する興味深い知見が得られた.これらの成果は電子情報通信学会,日本音響学会等で発表されている.

②[ 知識と文脈情報の融合処理へ向けての言語情報処理の高度化と知的言語処理システムへの応用(桃内佳雄・渋木英潔) ]
2003年度は,アイヌ語・日本語機械翻訳システムのための知識と文脈情報の融合的な処理方式とアイヌ語学習入門システムの基本的なしくみに関する研究を計画し,また,言語情報処理の高度化の一環として,一文一格の原理に基づく深層格の自動推測手法の研究を行った.
アイヌ語学習入門書を基礎資料として,小規模ではあるがアイヌ語・日本語対訳コーパスの作成とアイヌ語・日本語基本対訳辞書および日本語辞書の作成を行った.アイヌ語・日本語機械翻訳のための知識と文脈情報の融合的・漸進的な翻訳方式について検討し,機械翻訳システムを試作して翻訳実験を行った.また,アイヌ語と日本語における譲渡不可能な所有対象の表現に関する対照的な考察を進め,そのような表現の機械翻訳のための基礎的なしくみについて検討した.アイヌ語学習入門システムについては,GUIベースのシステムの試作を進めている.
深層格の自動推測手法では,分類語彙表とEDR日本語コーパスを実験データとして,一文一格の原理と深層格選好を表す確率により深層格を推測するシステムを作成した.また,表層表現から深層格を推測する規則を獲得することで被覆率を向上させる試みを行い,分類語彙表に登録されていない語彙に対しても推測できるかどうかを検討した.


③[ 学習機能を有する知的言語処理システムの研究(越前谷博) ]
 知的言語処理方式の計算機上での実現に向けて,学習アルゴリズムの基礎的な考察を行った.具体的には,対応関係にある2つの文の中から部分的な対応関係を決定する仕組みを実現した.そして,実際に,本手法をアイヌ語-日本語間の対訳語および英語-日本語間の対訳語の自動抽出のために使用した.本研究で提案する学習アルゴリズムでは,意味的な対応関係が成立する2つの文に対し,その中のコロケーション情報を利用することにより,システムが自動的に部分的な対応関係を決定する.その結果,統計的な手法において大きな問題であった,出現頻度が非常に低い対訳語に対しても,その抽出が可能になった.また,本手法は解析的な言語知識に強く依存することなく,学習アルゴリズムにより対訳語を抽出する.これは本手法が解析ツールの精度に影響されないため,様々な言語へ適用可能であり,高い汎用性を持っていることを意味する.また,この学習アルゴリズムを,質問文と応答文の組に対しても適用することで,学習型の対話処理システムを実現することが可能になると考えられる.




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