ニュース電子情報工学科

掲載日:2025.12.15

電子情報工学科の前田秀基教授と韓国・西江大学校(Sogang University)のパク・ムイン教授の共著論文がPhysics Letters B誌に掲載されました。

一般相対性理論において、ブラックホールはアインシュタイン方程式の解として記述される天体です。そして物理的に妥当な条件のもとで、「定常なブラックホールの外部領域はカー(Kerr)真空解で記述される」というブラックホール唯一性定理が証明されているため、カー解はブラックホール物理学における最も重要な研究対象とされています。しかし、このカー・ブラックホールの内部には、時間方向にループして過去の同じ時刻に戻ることが可能となる領域が存在し、これは理論上タイムマシーンの存在可能性を示唆するものです。この事実に対し、著名な物理学者スティーブン・ホーキングは、因果律(原因と結果の順序)が破れる領域は物理法則によって禁止されるべきであると考え、1992年に時間順序保護仮説を提唱しました。

本論文では、この時間順序保護仮説の真偽を、ホラヴァ(Horava)重力という重力理論の枠組みで研究しました。一般相対性理論が時間と空間を「時空」という単一の対象の異なる側面として同等に扱うのに対し、ホラヴァ重力は、ビッグバン付近の極初期宇宙やブラックホールの内部深くなど、時空が極度に歪む領域では時間と空間の同等性が失われるという斬新な考えに基づいています。前田教授らは、ホラヴァ重力に拡張されたカー解で記述されるブラックホールの時空構造を解析し、そのブラックホールの内部にはカー時空と同様に因果律が破れた領域が存在するものの、ホラヴァ重力に特有の3次元的曲率特異点が生じることによって、観測者がその領域に侵入することが不可能であることを示しました。この結果は、ホラヴァ重力という理論において時間順序保護仮説が正しいことを示唆するものです。

タイトル:Chronology protection of rotating black holes in a viable Lorentz-violating gravity
著者:Mu-In Park, Hideki Maeda
論文掲載ページ:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0370269325008214?via%3Dihub